works

修士研究
2018年度

■物部川流域圏中流部における屋敷構えの空間特性■
研究者:若林寛和

本稿は、高知県香美市を流れる物部川流域圏中流部における屋敷構えの空間特性に関する論考である。物部川流域圏中流部の農家の屋敷構えを対象とし、その空間特性を明らかにすることを目的としている。空間特性とは、分布や方位の特性、立地や配置の特性などから伺える空間の特徴である。


屋敷構えに関する研究は全国的に行われている。集落の構成には、地形や方位、土地利用などが関係し、これは屋敷構えにも影響を与える。屋敷構えの研究では集落の構成と屋敷構えの対応関係、ひいては人々の自然環境への適応、生業とのかかわり方といった地域的特色が明らかとなりえるのである。


高知県の一級河川物部川の中流部では、農家の屋敷構えの形態が様々に確認される。集落は河岸段丘の開発により発達し、起伏に富んだ地形に棚田や屋敷がある集落風景を見ることができる。中流部の集落は河川流域圏のなかでも日照や水利といった地形的制約が様々である。平坦な地形の下流部と比べるとある程度の地形的制約を受ける一方、谷尾根の激しい上流部と比べると地形的制約に対する拘束は軽い。地形的拘束の影響を受けつつも、そこに従属しきらないのが中流部の特色が言える。物部川流域圏において、集落構成要素である屋敷の屋敷構えを知ることは流域の特質と集落に住む人々の文化を把握する上で重要である。しかし、物部川において屋敷構えに注目した研究はいまだ行われていない。現在、家屋の建て替えが進みつつあり、現時点における屋敷構えを把握する意味は大きい。


本研究は、以下のプロセスで研究を行う。まず、各集落を集落形態、立地地形により類型化を行う。次に、屋敷構えを立地地形、正面方位性、屋敷地形状、主要素である主屋、納屋、蔵の配列形式により分析する。次に、屋敷構えと地形の関係を分析する。最後に、屋敷構えの決定に関わる人為的要因について分析を行う。以上の分析結果を既往の研究より把握した他地域の屋敷構えと比較することで、物部川流域圏中流部における屋敷構えの特殊性や他の地域との共通性を明らかにする。